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2018.08.20
野球

【甲子園企画】専大野球部×甲子園100回記念大会~あの夏の思い出~ 第3回

 阪神甲子園球場で行われている第100回全国高校野球選手権大会もベスト4高までが出揃い、大詰めを迎えようとしている。高校時代に甲子園を経験した専大野球部の選手を取り上げる特別連載、第3回では杉山拓海(経営1・仙台育英学園高)を取り上げる。


▲当時を懐かしむように取材に応じてくれた杉山拓海


 杉山は昨年の夏、主に5番・右翼として大会に出場。3回戦では春夏連覇をもくろむ大阪桐蔭高を9回逆転サヨナラ勝利で下し、ベスト8の成績を収めた。

 母校は取材日(8月12日)の前日に行われた浦和学院高との試合で敗れてしまったが、「試合はテレビで見ていましたし、仲のいい後輩とLINEでやり取りもしました」という杉山。高校球児として過ごした3年間をぞんぶんに語ってもらった。


「仙台育英学園高校に入学して、新しい環境に慣れるまで時間がかかったので、1年生のときの練習が特に大変でした。夏になると、ベンチに入れなかった3年生や2年生が手伝ってくれる練習があったのですが、そのときの練習がきつかったですね。中学の時は部員も少なく、上下の仲を感じることもほぼなかったので、そこに戸惑うこともありました」


 厳しい練習に日々取り組んだ杉山は、2年の秋にはベンチ入りメンバーとなった。出場機会も与えられたが、秋の明治神宮大会で試合に敗れてしまったことで、彼は決意を固める。


「秋の大会の試合では、僕が最後のバッターとなって負けてしまって、そのとき『もう最後の打者にはなりたくない』と思いました。そして、『レギュラーになりたい』とも強く思うようになりました。当時の僕は控えメンバーだったので。スタメンで出るにはバッティングの力を伸ばす必要があると感じ、1日1000回バットを振るようにしました。

学校で授業がある日は、朝と放課後の練習では1000回に届かず、居残り練習をしたり、自宅に戻って素振りをしたりしました。確かに大変でしたが『スタメンで試合に出たい』という思いがとても強かったので最後までやりきりました。あとは後輩たちの見本にもなりたいというのもありましたね」


 自らに厳しいノルマを課し、打力を鍛えた杉山は3年でライトのレギュラーを掴み取る。その年の夏に行われた宮城県予選を勝ち上がり、甲子園への切符を手にした。

「甲子園は、高校野球をやっていたら1番行きたいと思う場所です。僕は3年生の夏に甲子園に行けて、最後に1番いい場所で高校野球を終えられましたからね。最後にあそこでプレーできたことには感謝していますし、少しは親孝行もできたかなと思っています。

甲子園では1試合戦うたびにメンバーとの仲が深まってチームがより強くなっているように思えました。叶うのなら、もう1度高校球児として甲子園に戻ってきたいですね」


 そして、杉山と甲子園を語る上で欠かせないのが、3回戦で対戦した大阪桐蔭高との試合である。投手戦で試合が進むが、仙台育英高は8回に1点を先制されてしまう。最終回もあっさり2アウトまで取られ、走者なしで5番の杉山が打席に立つ。

『レギュラーになりたい、もう試合で最後のバッターにはなりたくない』という思いからバットを振り込んできた杉山。しかし、ここから劇的なドラマが待っていた。


「打席が回ってきたとき、『悔いだけは残らないようにしよう』と思いました。結果ヒットを打って塁に出ることができたんですけど、同時に『今日はウチに連打が出ていないな』ということも考えていました。そのあとは自然とスタートするタイミングを計っていて、気づいたら体が勝手に動いていましたね。失敗してしまったら、というためらいはありませんでした」


 2球目が放たれたと同時に2塁へ走り出した杉山。判定はセーフとなり、2アウトながら同点のランナーが2塁まで到達した。結局次のバッターは四球となり、逆転のランナーまで出塁。

 このとき、甲子園の雰囲気が変わったことを杉山は感じたという。


「2アウト1,2塁の場面で(7番の打者は)ショートゴロだったのですが、(ショートの)1塁への送球が少しだけそれました。甲子園は1つのプレーで球場の雰囲気が大きく変わる場所だと思います。自分も1プレーの重要性を感じました。送球がそれて、打者がセーフになった場面は今でも鮮明に思い出しますね」


 杉山の度胸あるプレーをきっかけに流れを取り戻した仙台育英高は、その後センターへの二塁打が飛び出し、サヨナラ逆転勝ちを収めたのだった。それは同時に、大阪桐蔭高の春夏連覇を阻止した瞬間でもあった。


「まず自分が同点のホームを踏んで、2塁ランナーも帰ってきたときは『あ、勝ったんだな』と、けっこう冷静でいられました。みんなはワーワー大騒ぎでしたけど。それと、試合に負けた大阪桐蔭高の選手が素早くベンチから出てきていたのが印象的でした。かなりショックの大きい負けだったと思うんですけど、それでも悲しむより先に観客にあいさつをしていて……。

 それを見て『自分らはこういうことができる学校に勝ったんだな』と気が引き締まりました。今年の大会でも注目されている選手がたくさんいるチームですからね。すごい人ばかりでした」


 充実した高校時代を過ごした杉山は、将来のレギュラー奪取に向けて練習の日々を送っている。最後に、最後まで全力プレーを貫いた母校の後輩たちに応援メッセージをもらった。


「試合は負けちゃいましたけど、高校で学んだことはこれからもいきていくので、どんなことをやるにしても、あの時のことを思い出して一生懸命にやってほしいと思います。僕も専大野球部の一員として、チームが1部に復帰して、優勝できるように練習を続けます」


(飛田翼・文4)