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専修大学体育会学生の中から、ある選手に焦点を当てていく企画「スポットライト」。いつも以上にクローズアップされた選手たちの姿を専スポがお届けしていきます。第8回は怪我に悩まされながらも、ついに大会で初のタイトルを手にしたレスリング部の選手にスポットライトを当てた。
11月11日と12日に福井県で行われた内閣総理大臣杯全日本大学選手権で、65kg級に出場した中村剛士(経営2・花咲徳栄高)が初優勝した。中村はかつて専大に在籍し、今月25日ポーランドで行われたレスリングU-23世界選手権の男子フリースタイル61kg級で優勝した中村倫也さん(平29卒・博報堂DYスポーツ所属)の弟でもある。その倫也さんも「剛士のポテンシャルは僕以上のものがある」と評するほど高い潜在能力の持ち主であるが、中村のこれまでのレスリング人生は、常に怪我と隣り合わせだった。
中学時代は全国王者にも輝いた経験を持つ中村。しかし、花咲徳栄高では怪我が多く、満足のいく成績が残せなかった。専大に進学してからも変わらず怪我に悩まされ、大学に入ってから靭帯を計3本断裂した。大会中に負傷し、泣く泣く途中棄権することも珍しくなかった。入学して約1年半、そのうち1年と2ヶ月の間は練習ができずリハビリをしながらチームメイトの練習を眺める日々を送った中村。それでもくじけなかったのは、治療先の先生や、同じくリハビリに励むアスリートから勇気をもらっていたからだ。
「治療先の先生からは、『どの選手にも壁にぶち当たる時期があって、そこを乗り越えられた選手が上にあがっていく。今はそういう時期だよ』という言葉をもらいました。『ジャンプをするにもしゃがむというのが絶対に必要で、お前は今しゃがんでいる最中だから』と声をかけてもらい、心の支えになりました」。
中村はリハビリ中でも、トップアスリートが集まる味の素トレーニングセンターに通った。そこではオリンピックに出場するような選手が中村と同じくリハビリをしていた。「選手が隣でリハビリを経て回復するのを見て、自分とは競技は違うけれどいつかは絶対こうなってやろうと思って、それがとてもモチベーションになりました。西が丘のリハビリで学んだことを大学の道場でも自主練として取り組んで、どの練習でどういうことをすれば1番早くトップに上り詰められるのか自分で考えてトレーニングをしました」と、同じ境遇の選手からも刺激を受けていた。
そして迎えた大会当日。これまでは大会直前に怪我が治っても、調整に費やす時間は確保できないまま試合に出ることが多かった中村だが、今回は2か月前から調整を行い、万全な体制で大会に臨むことができた。一見当たり前のように見えるが、怪我がちだった中村にとって最善のコンディションで大会を迎えられたのは専大に入って初めてのことだった。「まるでいつもと違う感覚がした」という中村は準決勝まで無失点で勝ち上がる安定した戦いぶり。決勝では互いにポイントを取り合う白熱した展開となったが、最後は拓大・志賀を相手に競り勝ち、念願の栄冠を手にした。これまで秘めていた才能がついに開花した瞬間だった。
「今はこんな状態(リハビリ中)だけど、いつかは絶対に復活してやるぞという気持ちは常に持っていました。周りの選手の活躍をずっと裏で観ていたので、そのときの感情もどんどん溢れてきて、本当にやってやったぞみたいな感じです」
必ず復活して優勝したい― その思いが人一倍強かったからこそ、優勝が決まった瞬間、中村は思わず感情を爆発させ歓喜の雄たけびを上げた。
大会後のインタビューで、12月に行われる天皇杯に向けて意気込みを聞いた。
「天皇杯は初めての出場になります。全日本のレベルになると自分より強い人たちがほとんどなので、まずは表彰台を目指して強い選手たちをどんどん倒していって、自分の自信につなげたいです。そして、この前の優勝はマグレではなかったというのを全日本の舞台で周りに見せつけられたらなと思います」
困難を乗り越えた中村の快進撃がいよいよ始まる―
(藤森崚祐・文2=写真も)