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憧れの舞台を3度走った野下稜平(経済4・鳥栖工業高)が陸上人生に終止符を打った。1年次から箱根駅伝5区を走り、その後5区、8区と3年連続で出走。予選会にも2度出走し、チームの連続出場に大きく貢献した。佐賀から専大へと歩みを進めた野下の陸上人生を振り返る。
▲第99回箱根駅伝にて8区を走る野下
〇陸上スタートは中学 3度の全国大会出場
野下の陸上人生は中学から始まった。元々、小学生の時から長距離を得意としており、所属していた少年野球チームで出場した陸上大会で成績を残していた。当時の監督の助言も参考にし、中学からは鳥栖中学校の陸上部に所属。特段、注目を浴びる強豪校ではなく、部員も少数だったが1年次から3年連続で九州大会に出場。3年次は全日本中学陸上、ジュニアオリンピック、都道府県駅伝と3つの全国大会に出場するという奮闘を見せた。
〇強豪鳥栖工業へ 一般生徒として入学
数々の地方や全国の大会を経験してきた実力者は九州屈指の強豪校、鳥栖工業へと進学した。鳥栖に住んでいた野下は、高校まで歩いて15分の距離。スポーツ推薦生ではなく、一般生として入学した。
高校でも更なる飛躍を誓いたかったが、現実は厳しいものがあった。中学時代とは打って変わって3年間で全国大会への出場はなし。駅伝も県駅伝の出走にとどまり、都大路駅伝への出走は叶わず。強豪校で埋もれた3年間を、「特に戦歴は残せなかったので、それは悔しいですね」と振り返る。
〇悔しさの高校時代から専大へ 箱根を目指した進学
苦しい高校時代だったが、野下は大学まで競技を続けようと考えていた。道が大きく動いたのは高校3年の夏前。専修大学から声がかかり、陸上での進学を決めた。「せっかく強豪校に行けて競技も続けられて、頑張れば箱根を目指せる位置にまでいるというのがなんとなくわかっていた。(スカウトが)来るところがあれば行けたら」と箱根駅伝を見据えた決断だった。
〇1年目から憧れの舞台へ
野下と箱根駅伝の出会いは小学生時代、家族でテレビ越しに観戦していたところまで遡る。当時は山の神と呼ばれた柏原竜二(東洋大)の全盛期。野下はその圧巻の走りに魅了され、憧れを抱いていた。
その憧れは1年目から現実のものとなる。チームは10月の予選会を突破し、7年ぶりの本戦出場が決定。夏合宿では練習の消化率も悪く、予選会メンバーに選ばれなかったが、本戦を見据えたチーム選考から流れが変わった。元々上りが得意だという自負に加え、柏原竜二への憧れがあった野下は5区走者に立候補。複数回行われたチーム内での上り坂トライアルで1位を獲得するなどもあり、5区出走が決まった。
「とても走るところではないですね」。憧れの舞台を走った野下だったが、これが正直な感想だった。区間順位は20位と苦しい走りに。「舞いすぎていたところもありました。1年目から出れるとは思ってなかったですし、(当時の走力的にも)走れていたことが奇跡でしたね」と振り返る1度目の出走となった。
〇着実に力がついた2年目 本戦出場で変わった意識
箱根駅伝出場を経験した野下は、気持ちの面での大きくステップアップした。「帰省明けから練習が楽に感じるようになって、そこから離れることがなくなった」と箱根に出た経験から、練習へ向き合う姿勢が変化。夏合宿期間の8月は調子も上向きで月間の走行距離が約900キロと着実に力をつけた。10月の予選会では64分34秒でチーム内4番手。昨年は果たせなかった予選会突破へ、見事貢献した。
本戦では再び5区に出走。区間順位は20位と振るわなかったが、タイムは前年と比較し5分ほど縮める成長を見せた。
▲4区、同期の水谷勇登(経営4・敦賀気比)から襷を受け取る野下 (陸上競技部提供)
〇経験生きた3年目
力の付いた2年目に対して3年目は順調とは言えなかった。夏合宿で調子を落とし、ポイント練習などもほとんど遅れる状況だった。それでもこれまでの経験が生き、予選会では64分39秒のチーム内4番手。本戦は、チーム状況も相まって急遽8区への出走が決定。「めっちゃ楽しかったですね」と2年連続で5区を経験した野下にとって、8区は心の底から楽しいと思えるコースだった。
▲8区を走る野下。「もう一度走るなら8区ですね」と話すほど、強く印象に残っているコースだという
〇悔しさ滲んだ最終年
チームは4年連続の箱根駅伝出場を目指す中、春先から故障に悩まされ関東インカレや全日本大学駅伝予選の出場はなし。夏合宿で復帰したものの、予選会直前に体調を崩し万全ではない状態での出走となり力を出し切れなかった。ただ、4年間で“まとめる力”がついた。「ハーフも大崩れしたことがなくて。どういう調子でもある程度のタイムで走ることができるようになりました」と自信を持てる部分は、予選会3回、本戦3回の出走経験が物語っている。
▲予選会を走る野下
〇思いは高校時代からの後輩へ
野下が4年間で最も印象に残っているチームメイトは1つ下の後輩、千代島宗汰(文3・鳥栖工業高)。「応援団長というか、部では浮かれるキャラというか(笑)」と印象を話すが、「人望は厚いですよ。高校の時から上下関係なく仲良かったので。そういうところは強みだと思いますよ」と人柄の良さはそばにいて強く感じる部分だ。
「キャプテンとしてやっていく中で、次の一年もきつい年になるかもしれないですけど最後くらい悔いなく終わってほしいなと。陰ながらそれを応援するしかないですね」。同郷の後輩へ言葉を残し、野下の大学陸上人生は幕を閉じる。
▲左が野下、右が千代島
文=相川直輝(文4)
写真=相川、髙野葵葉(文2)、陸上競技部提供