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専大のエースがこの秋、夢を叶えようとしている。
プロ野球選手になるという目標を持ち、専修大学に入学した菊地吏玖(経営4・札幌大谷高)。最速152キロの直球を武器に好成績を残し、東都大学野球連盟2部リーグ所属ながら大学日本代表の座を掴んだ。10月20日に行われる2022年プロ野球ドラフト会議では上位指名が確実視されている。夢舞台を目前にした今、菊地のこれまでとその魅力を改めてお伝えする。
【略歴】
北海道苫小牧市で生まれ育った菊地は、幼いころから野球に触れて育った。父親が野球をプレーしている姿を見ていたため、小学2年生で本格的に野球を始めたのは自然な流れだったという。地元の軟式野球チームに入団し、投手・捕手としてプレー。全国大会にも出場した。中学校では硬式野球の道に進み、地元のポニーリーグのチームでプレーした。
実家を出て、強豪の多い札幌の高校で野球がしたいと考えていた矢先に、熱心なスカウトを受け札幌大谷高校へ入学。1・2年生の間は怪我に泣かされ、投手としては満足にプレーできなかった。ようやくエースとして迎えた3年生の夏は支部予選を勝ち抜き、南北海道大会に出場。1回戦はリードして進めるも雨天中止になり、翌日再試合では打ち込まれ敗退。高卒でのプロ入りは断念したが、最終的に絶対にプロになるという決意の元、大学進学を決めた。
そこで「菊地が欲しい」と声をかけたのが専大だった。他の大学から練習の誘いなどはあったものの、明確に獲得の意思を示した学校は1つだけだったという。両親や高校の指導者と話し合い、「必要とされているところに行くべき」という考えから専大へ入学。
▲専大での4年間で大きく飛躍を果たした
こうしてプロを目指す4年間がスタートした。初登板は2年生の秋、開幕2カード目の2回戦。9回完封の好投で初勝利を収める。3年では春のリーグ戦でエースの座を掴み、優勝争いに貢献。続く秋は開幕戦で151キロを記録するも、脇腹痛により登板はわずかに終わった。4年生となる今春のリーグ戦では再びエースを担い、ベストナインと最優秀防御率のタイトルを獲得。この頃からプロ野球スカウト陣の菊地の評価もうなぎ上りに。夏には、侍ジャパン大学日本代表として、オランダで行われた「ハーレムベースボールウィーク2022」に参加。大会通して3試合8イニング無失点8奪三振と、世界を相手に躍動した。今秋は5試合に登板し驚異の4完投で4勝をマーク。防御率も0.63で1位と、2季連続で最優秀防御率のタイトルも視野に入っている。(成績は10/15現在)
▲野球人生で初めて日の丸を背負った菊地。国際試合でも存分に持ち味を発揮した
▲代表での背番号は「15」。専大出身の大先輩、黒田博樹さんが長年背負った番号だ
【投手・菊地吏玖】
最速152キロのストレートを軸に、スライダーやフォークで空振りを奪い、ツーシームやカットボールを織り交ぜ打者の芯を外す。また、時折投じるカーブで緩急も自在に操る。多彩な球種に加え、コース・高さを間違えないコントロールなど、全てを駆使して打者を打ち取る。登板回数の多さや、厳しい場面で投げる経験から身についたものだ。
▲美しいワインドアップから投げ込まれる
菊地の真骨頂は「点を与えない」ことである。先発投手としては長いイニングを投げなければならず、リーグ戦の日程上、中1日で中継ぎで登板する可能性もある。ゲームプランを組み立てて、ペース配分しながら投球する姿が見られた。走者を出しても、そこからギアを上げて粘り強く踏ん張る力がある。「もちろんランナーを出さないことが1番だが、それはなかなか難しい。ランナーを背負ってからどれだけ粘って点を与えないか。その考えはすごく大事にしている」と、点を与えないことに対する思いは強い。
▲試合中に見せるギアチェンジに見ている者は圧巻される
その反面、現状の課題として、これといった決め球がないことを挙げ「落ちるフォークがあるが、試合によって調子のバラつきが目立つ。もっと精度を高めて、決め球はこれと言えるように磨いていきたい」と自身を分析する。今や140キロ中盤の直球を常時投げているが、高校時代の最高球速は144キロ。入学してから球速が上がった要因は、「入学から2年の夏までは、ピッチャーとしてボールを投げることはせず、毎日欠かさずトレーニングと柔軟に注力していた。その結果、筋力がつき、全てのパワーをボールに伝えられるようになった」と振り返る。現時点での最速は152キロだが、「今の身体的に155~6キロは出せると思う」と向上心を覗かせた。専大投手陣の練習は、自主性を大切にし、自ら考えさせる指導スタイルで、菊地自身も適していると感じているようだ。ここで培った力は次のステージでも生かせるだろう。
▲まだまだ進化を続ける
しかし、これまでの野球人生を振り返ると、良かったことばかりではない。最も辛かったことは、高校1年の夏から2年の秋までのおよそ半年、肩の怪我に悩まされていた時期で、「病院に通い続けて、リハビリやストレッチをしてもなかなかよくならない。いつ治るのだろうと毎日思っていた」という。バッティングや守備ができても、1番好きなボールを投げるということができず、非常にもどかしい気分だった。そんな辛い時期を乗り越えられた背景には、通っていた病院のトレーナーの方の存在がある。「本当にお世話になった。なかなか怪我が良くならない時でも、『絶対に治って投げられるようになるから大丈夫、今が辛抱だよ』と勇気付けてくれた。あの方々がいなければ、今の自分はないかもしれない」と感謝の気持ちで溢れている。
▲試合前に素振りを行う菊地 高校2年の夏は怪我の影響で野手としてプレーしていた
試合中、菊地の姿を観察していると、とにかくチームメイトに声をかけ、盛り上げる様子が多く見られる。登板時、ベンチ横でキャッチボールをしている最中でも、チームに得点が入れば真っ先に駆け寄り喜ぶ。ピンチを切り抜けた時には気合のこもったガッツポーズを見せ、守備陣をねぎらう。試合前の整列でも笑顔を絶やさない。インタビューでも常に周りへの感謝を忘れず、「捕手のおかげで」というコメントを何度も口にしているのが印象的だった。
▲女房役、夏目 大(文4・常葉橘) への感謝は試合中に何度も見られた
▲渾身のガッツポーズは球場の空気を一変させる
本当の意味でチームを引っ張っていく「エース」の姿がそこにはある。この人間性こそが、菊地のもう一つの真骨頂だろう。
これから
チームは秋季リーグ戦4週目を終え勝ち点4、8勝1敗の首位。10月22日からは最終週、東洋大戦(UDトラックス上尾スタジアム)が始まる。あと1勝で2部での優勝が決まり、1部との入替戦への切符を手にする。リーグ戦開始前の菊地は、「まずは秋季リーグ戦でとにかく優勝する。そして入れ替え戦で勝って1部に昇格したい。また個人としては最優秀防御率のタイトルを取りたい。点を取られなければチームが負けることはないので、そこはこだわりたい。具体的な数字としては、春リーグは1点台だったので、秋は0.00、またはそれに近い数字を残したい」と語っていた。目標の1部昇格、最優秀防御率はもう目の前だ。
▲10月22日の登板が予想される菊地。勝てば優勝だ
そして、ドラフトで注目されていることについては「注目して頂けること自体が光栄。プロにいくいかないではなく、目の前の自分ができることを積み重ねていけば、良い方向に進むと思う」と冷静に語った。幼い頃からの憧れの人物は、現在メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有投手。「ずっとかっこいいと思う人。自分もチームのエース、野球界を代表する投手になって、もう一度侍ジャパンに選出されたい」と明確な目標を掲げた。
▲次はトップチームでの代表入りを目指す
最後に、専大生に向けて熱いメッセージを残してくれた。
「もし僕がプロ野球選手になったら、例え野球が好きでなくても、他球団のファンの方でも、僕のファンになって欲しい。色々な方から応援されるような、そんな存在になりたい」
強い覚悟を胸に、10月20日・ドラフト会議を迎える―。
菊地吏玖 (きくちりく)
経営4・札幌大谷高
2000年6月13日生まれ 北海道出身
183cm93kg 右投/左打
文章 前半:萩原健丸(経営1)、後半:河上明来海(文2)
写真 相川直輝(文3)、高橋尚之(経営3)、河上明来海(文2)