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2023.10.19
野球

【野球部】「全然自信はなかったし、今もない」 プロ志望届提出の天才ヒットメーカー・西村進之介単独インタビュー

▲プロ志望届を提出した西村進之介。


 プロ志望届を提出した「天才」、西村進之介(経済4・栄徳)が、専大スポーツの単独インタビューに応じた。指名されれば専大の野手としては7年ぶりの指名となる。10月26日を前に西村は「立場的に選ばれるか選ばれないかギリギリのラインですし、そこは不安と言えば不安です」と心境を明かす。3年秋に打率.409(44-18)、4本塁打と爆発し注目を集めたヒットメーカー。これまでにたどった道筋と、「天才」とされる所以に迫った。(インタビューは9月30日に行いました)


天才のはじまり


 西村進之介は愛知県名古屋市出身。「お父さんとバッティングセンターに遊びに行った時に少年野球の募集ポスターを見て、やってみたいと思った」と、小学2年時に野球を始めた。平日は小学校の部活動で、休日はクラブチームで、と野球漬けの少年時代だった。中学では「瑞穂ブルーウイングス」という軟式のクラブチームに入団し、主に三塁手としてプレーした。


 高校は栄徳高校に進学。「全然自分に自信がなかったんで、愛知のいわゆる『私学4強』には入れないなって思って。その次ぐらいだったらどこかな?って中で、指導者同士が知り合いっていうのもあって、(栄徳を)紹介してもらって入った」と進学を決めた要因を話す。栄徳高校は甲子園出場経験こそないものの、西村の入学前年(2016年)に夏の愛知県大会準決勝に進み、翌17年には決勝に進出するなど、メキメキと力を伸ばしていたチームだった。1学年上には野口泰司選手(名城大→NTT東日本)がいた。


▲高校時代の西村。(本人提供)


 西村は高校入学時から強肩で俊足巧打の選手で、1年時からAチームの練習に参加できるほどの力があった。2年生に上がると外野手でレギュラーの座を掴み、主に1番と3番を任されるなど早くもチームの核となった。2年秋には愛知県大会準々決勝まで進んだ。準々決勝では東邦高校に敗れたが、のちにセンバツ優勝投手となる石川昂弥選手(現中日ドラゴンズ)から豪快な一発を放った。「あんまり覚えていないけど、多分あの時調子がよくて、たまたまかなって感じ」。本人はあまり覚えていないそうだが、衝撃を与えた弾丸ライナーの本塁打だった。


スター選手との出会い


 その後、西村は愛知県の選抜チームに選出される。メンバーには石川選手をはじめ、今年のドラフト候補の上田希由翔選手(愛産大三河→明大)や石黒佑弥投手(星城→JR西日本)、現在東京六大学で活躍する堀内祐我選手(愛工大名電→明大)や今泉颯太(中京大中京→法大)など、名だたる選手が名を連ねた。「(彼らと)バッティング練習とかも一緒にできて、やっぱり上田とか石川のバッティング練習を見た時に『あ、これはもうとんでもねえやつだ』って改めて思った」と、西村は全国トップクラスの選手を見て衝撃を受けた。しかし、西村は大学生との壮行試合で本塁打を放つなど、彼らに一切引けを取らない活躍を見せる。「当時の純粋に凄いなって選手がたくさんいて、そんな中でできて普通に楽しかったし、楽な気持ちでできた。あれはいい経験だったなって思います」。トップレベルの選手との交流や共闘を経て、天才は磨き上がっていった。


▲当時から愛知県内では注目の選手だった。(本人提供)


 最後の夏は3回戦敗退。県内では注目を浴びていた西村だったが、プロの選択肢は「全然(なかった)」と振り返る。「(選抜チームでは)多分石川だけプロに行くって感じだったから『すごいな』って、『まあ行くだろうな』みたいな感じで全然他人事で。そんな自分がっていうのは全く考えてなかった」。しかし、「もうこっちの(関東の)大学に行きたいと漠然と思っていて」と、関東の大学への志望は強かった。栄徳高校と関東の大学とのコネクションはほとんどなかったそうだが、西村の視察に何度も訪れていた当時中日ドラゴンズスカウトの近藤真市氏に専修大学を紹介してもらう。近藤氏の助けもあり、専修大学への入学が決まった。


「みんなすごいなと思ったけど、特別驚きはしなかった」


▲2020年2月、西村はこの場所から専大の試合を初めて見て、レベルの高さを感じ取った。


 西村は入寮直後の2月、ちょうど今回のインタビューを行った伊勢原グラウンドのバックネット裏から先輩たちの試合を観戦した。「初回にめちゃくちゃ打って4点ぐらい取って、すっげえチームだなって思った」と専大の第一印象を話す。「(先輩たちは)みんなすごいなと思ったけど、特別驚きはしなかった。吏玖さん(菊地吏玖・令5・経営卒・現千葉ロッテマリーンズ)とかは一緒にやっていく中ですごいと思いだした。外山(優希・経営4・開星)は飛ばしてたなって思ったけど、でも入った時に衝撃っていうのはあんまりなかった」。レベルの高さは実感したが、驚きはほとんどなかった。


 「同じ140キロでも(大学レベルでは)伸びてくる。そういうのは本当にあるんだっていうのは感じた」と、大学のレベルへの対応には時間を要した。試合に出始めた頃に日本通運や東京ガスの投手と対戦し、直球の質の差を見せつけられた。「1打席しかもらえなかったけど、こういうピッチャーを打たないと話にならねえんだなっていうのは感じた」。その後少しずつ出場機会を掴み、リーグ戦でも出場機会が増え始めた。


天才の覚醒 衝撃の3年秋


▲3年秋の開幕戦の西村。いきなり3安打をマークし、ここからシーズン通して打ちまくった。


 3年秋のリーグ戦開幕前、西村は実戦から離れていた。「ホークスの3軍とここ(伊勢原)でやった時に顔面にデッドボールを喰らって、離脱した」。大事なリーグ戦を目前にして練習すらできなくなったが、「(開幕前)最後のオープン戦に滑り込みで間に合って、出たら3安打打って。数日練習もせずに復帰して、なぜか打てて」と、本人も驚くほど当たった。「そしたらそのまま(リーグ戦も)行っちゃった」と、衝撃のシーズンを迎える。


 9月6日の立正大との開幕戦(神宮)で1番に座るといきなり3安打を記録。さらに9月13日の対国士大1回戦(大田)では9回の勝ち越し本塁打を含む4安打を放った。西村はこの国士大戦での一発が特に印象に残っていると話す。「ちゃんと俺で勝ったなって試合だった」と自信を深め、その後も天才的なバットコントロールで安打を量産した。結局開幕から9試合連続安打をマークし、10月11日の対東農大2回戦(上尾)では2本塁打を放つなど、1シーズンで4本のアーチを放った。西村の衝撃的な活躍もありチームは2部優勝を遂げ、西村自身もリーグMVPを獲得した。


▲決勝弾を含む4安打をマークした対国士大1回戦。

▲2本塁打の対東農大2回戦。3回戦でも一発を放ち、このカードは2戦3ホーマーと大暴れだった。


 そして11月3日の駒大との入替戦初戦。西村は1回裏の初球を右翼席に叩き込んだ。「あれはもう打ち損じ。『ああ、しくったわ』と思ったらたまたま風に乗って、『あ、入っちゃったわ』みたいな」。納得の当たりではなかったが、チームに勇気と勢いをもたらした。「(リーグ戦最後の)東洋戦で3試合タコって、急にダメかもって思っていたけど、入替戦の初球で打てた。あれがライトフライじゃなくて入ったから、ちゃんと評価してもらえたのかなっていうのもあるし、そこも運かな」。専大は1部昇格を逃したが、このシーズンの活躍で西村進之介の名は全国に轟いた。そして、西村に初めて「プロ野球」という選択肢が生まれた。


▲入替戦の初球先頭弾。この一発で西村進之介の名はさらに広がった。


「(3年秋は)実力以上のものが出てしまった」


▲今春も変わらず美しい打撃を見せたが、秋はとにかく苦しんだ。


 4年春、ドラフト候補として注目されるようになった西村は打率.327をマークしベストナインを受賞。5位に沈んだチームを懸命に引っ張った。しかし、今秋は絶不調が長く続いた。リーグ戦後半に調子を戻してきたが、10月17日の試合を終えた時点で打率.220と苦しんだ。最後のシーズンは、結果的に十分なアピールをすることができなかった。


「(3年秋は)人生で一番打てていた。本当にたまたま、実力以上のものが出てしまったなって。今も自信はないし、周りはすごいと言ってくれる人もいるけど、基本的にはたまたま打っちゃったっていう感じ」。西村は、むしろ今年の打撃が本来の姿だと強調する。


▲淡々と安打を積み重ねる西村だが、今でも自分に自信はないと話す。


 3年冬にプロ志望を表明したが、自信がなかったためにプロ志望届の提出はギリギリまで悩んだ。それでも、「(プロ志望届を)出せる選手って意外と少ないと思って。もし出さなかったら変な気持ちになりそうだなって。出してもいいんじゃない?っていう風になったんだったら、出しても人生の中で面白いかなと思った」と、9月7日に西舘昂汰(経済4・筑陽学園)とともに提出した。「全然自信はなかったし、今もないけど、プロ志望を出せるっていうのもいいかな」。自信なき天才は、挑戦を選んだ。


天才の打撃論


▲西村はポーカーフェイスの奥で、常に打撃と向き合っている。


 「自分の持っている引き出しが何個かある」と、西村にはいくつもの打撃論が備わっている。「コーチの話や他の投手が見て言ってくれたことから引き出しを増やして、どの引き出しを開けるかは打っている時に感覚で(決める)」。その多くの引き出しの中にはこれまでに触れてきたトップレベルの選手や経験豊富な指導者、大切な仲間の知恵や理論が詰まっている。彼らの話に素直に耳を傾けてきた西村の姿勢こそ、天才たる所以だ。


 しかし同時に、自分の感覚も大事にする打者でもある。「打つべくして打たないと気持ちが悪い。(引き出しにあることが)できたら打てるし、そういうのができないと打てない。頭で考えていることがちゃんと体現できていたら調子がいいという感覚が自分の中にある」。駒大との入替戦で放った一発もそうだったが、感覚に合わずに結果が出ても「今のは絶対違う」と納得できずにいる。試合中は一切表情を変えない西村だが、その奥では常に引き出しにある理論と感覚との答え合わせが行われている。


▲3年秋の対東洋大1回戦、延長戦で凡退した西村。

▲入替戦のあの一発も、納得はしていなかった。


「不安と言えば不安です」


▲残り1週間。西村はプロへの熱い思いを静かに語った。


 10月26日に運命のドラフト会議を迎える。「(プロに)行けるなら本当にどこでも(いい)」と、プロの世界での挑戦を熱望する専大の核弾頭。専大から野手でプロ入りとなれば、森山恵佑さん(平29・商卒・元北海道日本ハムファイターズ)以来7年ぶりとなる。あと1週間。人事を尽くして天命を待つ。


文=野見山拓樹(文4)

写真=相川直輝(文4) 高橋尚之(経営4)